過去の水銀燈の日記
今日はとてもいいことがありました。それはお父様が日記帳を私に下さったことです。日記帳とはどのようなことを書けばいいのですかとお父様に聞くと、お父様は「その日にあってその日水銀燈が一番心に残ったことを書けばいいんだよ」と教えてくださいました。今日も私はお父様のお手伝いを一日させて頂き、とても充実した一日をおくりました。少し前までは玉子料理ぐらいしか作れなかった私も、最近は料理のレパートリーがだいぶ増え、お父様も喜んでくださってとても嬉しかったです。あと、なんだか自分で描く文はなかなか上手にまとまらないと思いました。

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今日は、お父様に羽の使い方を教わりました。私の背中についている羽は私の意志で自由に動かせるそうで、私は今日までぜんぜん知りませんでした。お父様は一生懸命私に羽の使い方を教えてくださいましたが、私はなかなかおぼえることが出来ませんでした。一日練習したのですがやっと羽を動かすことが出来るぐらいまでしか使えるように馴れませんでした。半日付き合ってくれたお父様に申し訳なくて、とても悲しかったです。

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あれから三週間ほど立ったでしょうか、私はまだ羽を上手に使うことが出来ません。「君の羽は上手に扱えれば空だって飛ぶことが出来るんだ」とお父様は教えてくださいましたが、私は羽を膨らますことも満足に出来ないので暫くは空を飛ぶことは出来そうにないです。空を飛べれば、高いところにある物も台座を使わなくても取れるようになるのに、時々お父様が私に取れないものを取ってくださるとき私はなんてだめな人形なんだという気持ちになります。もっと努力して、頑張って、せめて自分に出来るはずのことぐらいはきちんと出来るようになりたいです。でも、日記のつけ方はだいぶ上手くなった気がしています。

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今日お父様がとても悲しそうな顔をして帰ってこられました。私はすぐに理由を聞きたかったのですが、嫌なことがあったのならそれを蒸し返してはいけないと思い、今日は聞くのをやめることにしました。

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お父様はこのところ考え込むことが多くなりました。人形を飾る部屋のテラスからただじっと椅子に座り外を見ていることが多いです。ご飯の支度が出来ても返事返してくださらないときはどうすればいいのか迷います。声が届いていられればいいのですが、届いてられない場合、言い直さなければなりません。その判断が難しいのです。あ、今あまり考えたくないことを考えてしまいました。でも、お父様が最近難しい顔をされている原因はやはり私がお父様の作ったとおりに動けないからかもしれないです。なんて不甲斐ない人形なんだろう私は。

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今日はお父様が月に一度私のねじを巻かれる日なのですが、お父様は巻いて下さりませんでした。不遜な考えかも知れませんが、もしかしたら忘れていらっしゃるのかもしれません。でも、もしかしたら何か分けが御ありになるのかもしれません。まあ、どの道、私が止れば巻いてくださるでしょうから余り気にしないことにしようと思いました。それに、何時も完璧なお父様がミスをするというのも少し見て見たいとも思ってしまいました。